京都が京都であり続けるために産官学民の意志を結び、取り組んできたまちづくり
ACHIEVEMENT 02
大島仁の仕事
地球温暖化対策の充実に向けた「環境モデル都市」への挑戦
平成20年4月に地球環境政策監(地球温暖化対策担当局長)に着任します。
地球温暖化対策と言えば、平成27年(2015年)に「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」がパリで開催され、196の国と地域が温暖化の抑止を約束したことが記憶に新しいところですが、それに先立つ平成9年(1997年)12月にCOP3が京都市で開催され、先進国にはCO2などの温室効果ガスの排出を減らす義務が課せられました。その時に参加各国が交わした条約は「京都議定書」と呼ばれ、地球温暖化対策に世界中が取り組む出発点となりました。
第5回世界水フォーラム(イスタンブール)
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(写真:The 5th World Water Forum Istanbul 2009 Water Youth Movement) |
京都市も議定書に関わりの深い都市として、低炭素社会に転換するために、ライフスタイルや交通の在り方、さらには社会の仕組みを根本からかえるための目に見えた取組みが必要でした。
そこで京都市は市民ぐるみで先駆的な取り組みにチャレンジする都市として、当時国が募集していた「環境モデル都市」に応募しようということになりました。環境モデル都市のイメージは、コンパクトシティ化・森林の保全と活用・交通体系の整備・環境教育の充実・再生可能エネルギーの普及・ライフスタイルの変革を当該都市の中で統合的に推進し、最終的には地域の活力を創出することにありました。
温暖化対策室を中心に、家庭ごみの有料化やごみの分別・リサイクルの徹底など、これまで京都市が進めてきた環境政策をはじめ、歩行者主役のまちづくり、京都の伝統を現代に生かす「京町家」の復権、「地域力」を生かした各種取組みの展開といった「歴史都市・京都」らしいを提案しましたが、平成20年7月22日の1次選定から漏れてしまうのです。ショックでした。全国で89自治体が応募したのに対し、1次選定は6都市しかなかったのですから激戦だったと思われます。ただ、次点候補の7都市に選ばれたことはラッキーでした。2次選定にむけて再挑戦できたからです。
がっかりした気持ちを切り替えて、温暖化対策室のメンバーと何が足りなかったのか、選定都市との違いは何か、議論しました。選定委員の先生方にもお話をお聞きしに、東京の研究所までお邪魔したこともあります。そして出した結論は、欲張り過ぎた、ということでした。
環境モデル都市のコンセプトは、先にも述べたように、各種の政策を「統合的に」推進することでした。だから、色々と知恵を絞って、やや百貨店的に政策を並べたのですが、そのことが個々の政策に深みがないと判断されてしまったようなのです。
確かに、1次選定の北海道下川町は森林との共生を低炭素社会に結び付ける提案、富山市はコンパクトシティ戦略を低炭素社会に結び付ける提案、水俣市は水俣病で苦しんだ経験をもとに環境と経済の調和を持続可能な社会づくりに結び付ける提案、というように、自分たちの得意とする分野に絞り込んでいました。
そこで、私たちは色々と書きたい気持ちを抑えて、(1)町衆の知恵と行動力、歴史的に培われた「地域力」を活かした低炭素活動の促進(2)歩行者主役のまちづくりを目指して、四条通の車線減少と歩道拡幅、公共交通を優先する交通体系の確立、細街路への自動車流入抑制等(3)京都の伝統を現代に生かす取り組みとして、京町家の知恵と現代的な環境技術を融合した「平成の京町家」の提案(4)「地域力」を生かした低炭素化活動として、「エコ町内会」「エコ学区」など、地域ぐるみの取り組みの充実、といった「歴史都市・京都」らしい取組みに絞り込んだのです。
環境モデル都市認定証
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平成21年1月22日の2次選定で、ついに「環境モデル都市」に選定され、その後の京都市の温暖化対策の方向性が定まったのでした。ここでも私が重視したのは、各界各層の皆さんの意見を徹底してお聞きすることでした。取り分け「エコ町内会」や「エコ学区」の取組は地元の皆さんに「心から納得」して頂かないと実現しないことは明らかでしたから。
そうした議論の過程で、京都市の提案がコンビニの24時間営業に一石を投じるということもありました。こう提案したのです。何も全店でなくても、地域的にそのニーズのある店舗だけ24時間営業したらいいのでは、と。夜間電力や人件費の削減に有効と考えたのでした。今なら違う反響があったと思うのですが、当時は少数意見として取り合ってもらえませんでした。でも、時代を先取りした提案であったと、私は今でも思っています。
平成23年12月には、東日本大震災で被害を受けた6つの地域を含む11都市・地域が「環境未来都市」に選定されました。これは環境モデル都市より高いレベルで持続可能な都市を目指すもので、環境のみならず超高齢化社会に対応し、人間中心の新たな価値を創造する都市を基本コンセプトにしています。時代の動きに連動し、様々な都市づくりのコンセプトがこれからも提案されてくるでしょう。その時求められるのは、私たちが持てる全ての“智慧”を注ぎ込むことだと思うのです。